第五囘 發句教室
『鳰(にほ)の會(くわい)』
アミイユ豐中庄本
この作品を讀む時、この音樂を聞きながら鑑賞して下さい。
これは高秋美樹彦の自作(オリジナル)による、
『Motion1(JAZZ風に)』
といふ曲で、YAMAHAの「QY100」で作りました。
映像は和歌山懸にある、
『熊野』
へ出かけた時のものです。
雰圍氣を味はつて戴ければ幸ひです。
ない方が良いといふ讀者は、ご自由にどうぞ。
第三月曜日で今日は『アミイユ豐中庄本』で發句(ほつく)教室『鳰(にほ)の會(くわい)』の日です。
これで第五回目です。
今日は季題を設けず、皆の書留めた作品を鑑賞してから添削をしました。
その前に、第三囘の終りの時に手渡された村田紅風(こうふう)さんの十三句を、添削した經緯(けいゐ)を創作の手掛かりとして鑑賞しながら、みんなで讀んでみました。
それを終へてから、メモして下さいといふお願ひをしてゐた、それぞれの句を提出してもらひました。
以下にそれを述べます。
まづ最初は、淺井黄月(こうげつ)さんの句です。
母の日に思つてゐない花が來た 黄月
ははのひに おもつてゐない はながきた
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪♪♪♪♪†┃♪♪♪♪†ζ┃
これは大變(たいへん)に解り易い句で、もう家庭もあつて子供もゐる忙しい日々の中を、娘或いは息子から「母の日」に思ひもかけない花が送られて來ました。
とても嬉しく、家族がある事の歓びを噛み締められる時です。
もう子供とは言へない年齡ではあるが、幾つになつても親から見れば子供なのです。
このままでも構ひませんが、
母の日に思ひがけない花一輪
ははのひに おもひがけない はないちりん
C♪♪♪♪†ζ┃γ♪♪♪♪♪♪♪┃♪♪♪♪ † ζ┃
と少しばかり言葉を整へてみませう。
二句目は、
部屋の外可愛い猫が鳴いてゐる 黄月
へやのそと かはいいねこが ないてゐる
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪♪♪♪♪†┃♪♪♪♪†ζ┃
といふもので、くつきりとした句です。
でも、「可愛い」といふ形容詞が「猫」の何かを傳へてゐません。
發句は形容詞ではなく、普通名詞か動詞で傳へると良いと思ひます。
その場合、季語以外では固有名詞は避けて下さい。
そこで、「部屋の外」にゐる「猫が鳴いてゐ」ても、口だけが動いて「鳴いてゐる」聲が聞えないといふ情景を想像して、
口開けて猫の聲なき窓の外
くちあけて ねこのこゑなき まどのそと
C♪♪♪♪†ζ┃γ♪♪♪♪♪♪♪┃♪♪♪♪†ζ┃
とすればどうでせう。
窓の外の塀の上にでもゐる愛くるしい猫の仕種が、浮んで來ませんか。
二人目は、森下月森さんです。
爆音にちらちら咲いたさくらかな 月信
ばくおんに ちらちらさいた さくらかな
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪♪♪♪♪†┃♪♪♪♪†ζ┃
この句の背景が氣になります。
伊丹飛行場(大阪國際空港)に近いこの地域は、普通に飛行機の發著(はつちやく)の音が聞かれますが、この「爆音」といふ言葉にはそれとは違つた、戰爭体験者の苦い思ひ出が蘇つたといふやうな切迫したものを感じます。
あの時に多くの人が犧牲となつて亡くなり、その後も多くの身近な人達を見送つて今も生きてゐる事への、悔しさや悲しさや、さうして喜びが、今年を迎へた春に咲く櫻の華やかさが眩しい、といふやうな情景が浮びます。
この句を添削するとすれば、
爆音にちらちら散りぬ櫻かな
ばくおんに ちらちらちりぬ さくらかな
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪♪♪♪♪†┃♪♪♪♪†ζ┃
敢(あへ)て「咲く」といふよりも、句意から言へば「散る」の方が心象(イメエヂ)に合ふのではないかと考へます。
次の句ですが、
晴れた空咲いた櫻の今朝の花
はれた そらに さいたさくらの けさのはな
C♪♪♪ ♪♪†ζ┃γ♪♪♪♪♪♪♪┃♪♪♪♪†ζ┃
この句の下句の「今朝の花」は、中句の「櫻」と重複して十七文字といふ少ない語數を無駄に使つてゐます。
そこで、
晴れた空に咲いた櫻の今朝の色
はれた そらに さいたさくらの けさのいろ
C♪♪♪ ♪♪†ζ┃γ♪♪♪♪♪♪♪┃♪♪♪♪†ζ┃
と、「花」を「色」に變へただけで、「晴れた空」の「青」と「櫻」の色とが鮮明に目に浮ぶのではないかと思ひます。
更に、「咲いた」といふ言葉も不要で、
晴れた空にさくら見上げん今朝の色
はれた そらに さくら みあげん けさのいろ
C♪♪♪ ♪♪†ζ┃γ♪♪♪♪♪♪♪┃♪♪♪♪†ζ┃
とすればどうせでうか、
次は田旗みづほさんの番です。
窓越しの日光浴今日は子供の日 みづほ
この文章は、ただ羅列しただけなんですが、少し整へるだけで、
窓越しの日光浴や子供の日
まどごしの につくわうよくや こどものひ
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪ ♪ ♪♪♪†┃♪♪♪♪†ζ┃
と、これでもう立派に句として成立してゐます。
句意は、うとうとと「窓越し」で「日光浴」をしてゐると、心地良くて何だか子供の頃の思ひ出が浮び、そのまま精神まで幼兒(えうじ)に後退したかのやうな氣分になる。
それもその筈で、今日は「子供の日」だつた、といふところでせうか。
二句目は、
ふと目覺めお茶漬の味 みづほ
といふもので、これは本當にメモだといつてもいいでせうが、これだつて考へようによれば、
夜中ふと目覺めて茶漬の味戀し
よなかふと めざめてちゃづけの あぢこひし
C♪♪♪♪†ζ┃♪♪♪♪ ♪ ♪♪♪┃♪♪♪♪†ζ┃
かうして、「外國の空の下」とでも詞書(ことばがき)があれば完璧となるのではないでせうか。
今囘は、折角作つてこられた村田紅風さんの句を預からずに、推敲してから次の囘に受取ると傳へました。
冷たいと思はれるかも知れませんが、、上達する爲には已むを得ません。
今囘は、
淺井黄月(こうげつ)
榎本虎水(こすい)
田旗みづほ
舟曳美舟(びしう)
村田紅風(こうふう)
森下月森(げつしん)
といふお馴染みの六名でした。(アイウエオ順・敬稱略(けいしようりやく))
少し時間が伸びて一時間半で終へ、建物を後にするとポツポツと雨が降り出してゐて、慌てて酷くなる雨脚の中を歸りました。
二〇一四年五月十八日
次囘は六月一日(月)の午後二時に開催します。
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